
センター長挨拶 Greetings

総合周産期母子医療センターの
開設にあたり
島根大学医学部附属病院・総合周産期母子医療センター開設にあたり、ご挨拶申し上げます。わが国の少子化の流れは加速しており、最盛期には年間250万人の出生数であったのが、最近では90万人を切っています。これは全国一律どの地域でも見られる現象ですが、島根県では全国平均よりもさらに顕著で、分娩数は県下どの病院も軒並み減少し、令和2年度は、コロナによる産み控えの影響もあるかも知れませんが、ついに5000件を切りました。しかしながら晩婚化や生殖医療技術の進歩により母体の高齢化は年々進んでおり、生活習慣病の増加と相まって、ハイリスク妊娠は逆に増加しております。ハイリスク分娩に対する管理は一昔前の産科医療では考えられないほど複雑化しており、ハイリスク分娩のみならず、正常の分娩に対してさえも、社会的な要求度は益々高くなっております。島根県では従来から早産児の頻度が全国の平均よりも常に高く、早産防止の取り組みが長年の課題とされてきましたが、解決には至っておりません。さらには本県での新生児科医の不足も長年の課題でありました。
そのような背景の中、本院は島根県立中央病院から引き継ぐ形で2021年4月1 日より島根県の総合周産期母子医療センターに指定されました。総合周産期母子医療センターの役割は、県内の周産期医療体制の舵取りであり、現状を踏まえ、どのような対策を取って行くかが、今まさに問われています。
島根県における周産期医療が目指すべきキーワードとして、「戦略的な集約化と人材の養成」を掲げたいと思います。かつて産科医の不足により地域でお産できる病院が減少し、お産難民が話題となっていましたが、オール島根体制で若手産婦人科医を獲得するとともに、分娩施設の適正,適度な集約化が行われた結果、地域で安全なお産が出来る体制が整ってきました。一方、新生児医療は、分娩以上の一層の集約化が望まれます。未熟児に対しては新生児専門医の下で高度な医療が施されるべきであり、島根県のような人口の少ない県では、複数の施設が並行して未熟児を扱うよりは、施設ごとに対応できる週数を限定した高度な集約化が肝要と考えます。これにより新生児専門医を養成するための症例集約も可能となります。本院が総合周産期母子医療センターに指定されたのを機に、このような体制を整備しました。当センターでは主に出生週数22週から31週までの未熟児を担当させていただくことになっております。また他の週数を担当いただく各施設とは、まめネットを用いたWEBシステムにより緊密に連携してゆきます。これにより県内の産科と新生児医療は一元管理され、効率的かつ最適な施設での未熟児医療が可能となります。
当センターはMFICU 3床を含む母体・胎児部門とNICU 12床、GCU 9床を含む新生児部門を備えております。高度の周産期医療は産婦人科、小児科だけで行うことはできません。母体・胎児部門、新生児部門に加え、小児外科、小児循環器外科、眼科、耳鼻科などの新生児外科部門、高度生殖補助医療を担当する生殖部門、助産師、薬剤師、管理栄養士を含めた診療支援部門が結集したチームを形成し、大学病院の強みを生かした集学的な周産期医療を提供したいと考えます。周産期医療はわが国、島根県の未来を支える大切なものであり、当センターへの皆様のご協力、ご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。
島根大学医学部附属病院・総合周産期母子医療センター長
産科婦人科学教授 京 哲